面白いもので、こちらの作品は、皆さん一瞥されると振り返り直し、二度見されます。
単なる風景写真だと思ったら、何かがおかしい…。
よく見ると細密に描き込まれた「絵」だし、何より「現実にはありえない風景」なのですから。
作者のダグ・ウェブ(Doug Webb)は、トルコのイスタンブール生まれ(1946年)。その後、アメリカはカリフォルニアに育ちました。
写真に見間違える程の緻密な描写は、彼が幼少の頃に端を発しています。
子どもの頃から写実的な描写に長け、やがて美術学校に進学しますが、ここで大きな転換点に遭遇します。
60年代半ば、時代は抽象芸術にスポットが当たっていたのです。
時代の潮流(抽象主義)と自分の写実的な芸術がそぐわなかったのでしょうか。彼はそこを一年で退学してしまいます。
その後数年のブランクを空け、彼に注目が集まりだすのは70年代になってからです。
現在では、1984年のロサンゼルスで開かれた「国際美術展」での金賞受賞を皮切りに、多くの個展・グループ展を開催。近年では大学で後進の育成にも当たっています。
さて、絵画で「ありえない風景」というと、絵画好きの方でしたら、サルバドール・ダリやルネ・マグリットに代表される「シュール・レアリスム」を思い浮かべるのではないでしょうか。
圧倒的な写実力を持ちながら、それが「時代の要求」とはならなかった。
しかし、それがむしろ、具象的風景ではない、抽象的な「超越した風景」との邂逅につながったのかもしれません。
しかも、そうした「現実にありえない風景」を描いたとしても、正確で密な描写技術によって「この風景はややもするとありえるのではないか?」と見ている人の認識をゆさぶる。
まさに「スーパー・シュールレアリスム」的な唯一無二の作風を完成させたと言えるでしょう。
彼は、眠りにつく直前の半覚醒の状態で浮かぶヴィジョンを基に、作品を作り始めるらしいです。
つまり、精神の無意識層にアクセスして、そこから作品のアイデアを引き出すということでしょうか。
アンドレ・ブルトンの自動書記を思わせる、まさにシュールレアリスム的なエピソードですが、それが超絶な写実的技巧で描かれるとこうなる。
皆さんも、当ギャラリーで、ダグ・ウェブの「不思議な世界」を体感してみてくださいね。